こんにちは、お久しぶりです。カレェちゃんです。現在暇な夏休みを謳歌しています。
今回ご紹介したい本はこちら。
『林檎貫通式』 飯田有子|現代短歌クラシックス|短歌|書籍|書肆侃侃房
飯田有子さんの『林檎貫通式』という歌集です。前に出ていたものの復刻リニューアル版ということです。
飯田有子さんといえば有名なのがこの三首だと思います。
婦人用トイレ表示がきらいきらいあたしはケンカ強い強い
たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔
女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて
「婦人用トイレ」と「パラシュート部隊」の歌を読んで、飯田さんの作る歌は自分はとても好きだなと思いました。短歌を鑑賞し始めて日が浅いですが、こうした女性性を前面に出す歌にあまり出会ってこなかったのでとても新鮮で、身近な歌のように感じられて好きです。
それにしても女子だけ体育館に集められて月経の話を聞くのって、先生たちの指導要綱にでも書いてあるのでしょうか?どの人にもこうした共通の経験がありますよね。
以下好きだった歌七首です。
雪まみれの頭を振ってきみは絶対泣かない機械となりぬ
私にとって「絶対泣かない機械」で想像するのは性被害にあった女性の姿です。性被害にあった直後かもしれないし、それを身近な大人に打ち明けて大ごとにしてくれなかったあとかもしれない。彼女の大人や世の中への絶望感や悔しさが彼女を「絶対泣かない機械」へ変えてしまった。それを作中主体のおそらく友人はただそばにいて慰めることしかできない。悲しくて、でも直感で分かってしまう人が多い歌かもしれません。
NOということも面倒だきあえば砂糖焦がした匂いがするね
天才嘘つきのおまえのみつあみは王冠よりもゆたかに編まれ
最高に素敵な歌だと思います。天才嘘つき。自分の子供を詠んだ歌でしょうか。
顔にできる日かげと日なた全部欲しいと言わずみつめていた長い午後
外、好きな人と向かい合って座っていて、相手の顔には横から差す日のせいで日かげと日なたができている。好きな人の好きなものは自分も好きだし、語られる思想はとても高尚なものに感じる。おそらく仲が深まれば今抱いている相手への勘違いはすべて解けるのだろうが、それでも今はすべてが愛しい。顔にできる陰もすべて。
おばあちゃんが陰干しに吊る宇宙服とポシェットからほの匂う樟脳
調べてみると、樟脳とはカンフルとも呼ばれて、メントール系の爽やかな香りがして、防虫剤や芳香剤に使われるもののようです。宇宙服を家で洗うことはできるのかな?と検索してみると、こんな写真を見つけました。
ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センターで男性が宇宙服を天日干ししている写真です。この光景すごく面白い。
歌の中の宇宙服の持ち主はポシェットと同じ人かもしれないし、おばあちゃんが自分の子供の宇宙服と、孫のポシェットを干しているのかもしれないですね。おばあちゃんが昔着ていたものかもしれないし。いろんな場面が想像できて楽しい歌です。
法律上の妹的なあやまちを両手はおのずと櫂をかたどる
「法律上の妹的なあやまち」ってどういう類のあやまちなのか。そこも引っかかるし、「両手で櫂をかたどる」のもどうやるんだろう、とまた引っかかり、最後までよくわからない歌ですが、なぜか惹かれました。
小さな匙を小さな舌に受け取って折り目だらけのきれいなあの子
この歌には、表面には表れないものを想像していたわる優しさを感じます。きれいな顔できれいな服を着るあの子もきっと「折り目だらけ」なのだろう。それはどんな人でも持っているものだけれど、見落とされがちなあの子にもきっとある。
以上好きだった七首をご紹介しました。口語で読みやすい歌ばかりなので、興味を持った方は是非読んでみてください。